環研究圏擬装網

北海道の大地で研究と趣味に勤しむへっぽこの備忘録。

ハマトビウオ属についての所感 ウケグチトビウオとオオメナツトビについて

先日から標本を見ているが、そのうちトビウオの標本が現在最も悩みの種として私を苦しめている。

トビウオ類はダツ目Beloniformesトビウオ科Exocoetidaeに分類される硬骨魚類であり、California Academy of Sciencesのカタログでは世界に7属75種が有効種として存在しているようである。まあそんなことは現在問題ではない。

日本で多くみられるトビウオはそのほとんどがハマトビウオ属Cypselurusに含まれている。例えばトビウオ、ハマトビウオ、ツクシトビウオ、ホソトビウオなどだが、このうちツクシトビウオをはじめとする種はCheilopogonに分類されていることがある。それどころか、ハマトビウオでさえCheilopogonに分類されていることさえある。まだ文献を漁り切っていないので何とも言えないが、どこでその分類が揺れているのだろうか? 例えば北海道の魚類全種図鑑(2020)ではCypselurusが有効属として用いられているが、本村(2021)ではCheilopogonが採用されている。後者ではCypselurusを無効とは扱っていないようだが、その線引きは少々曖昧である。

 

本村浩之(2021),日本産魚類全種目録.これまでに記録された日本産魚類全種の現在の標準和名と学名.Online ver. 9.https://www.museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/jaf.html

尼岡邦夫,仲谷一宏,矢部衞(2020),北海道の魚類全種図鑑,北海道新聞

 

本題に移ろう。

とにかく、まだ定かでないということはどちらの見識を採用したかを明記すれば良いわけで、それほど問題にもならないのかもしれない(すっきりはしないが)。問題はタイトルにも書いたウケグチトビウオとオオメナツトビである。ウケグチトビウオCypselurus longibarbus  (Parin 1961) は私の見るべき標本の中にもあるわけだが、このウケグチトビウオがオオメナツトビCheilopogon unicolor (Valenciennes 1847) の新参異名ではないかという論文を発見した。

 

SHAKHOVSKOY, I. B., & PARIN, N. V. (2019). A review of the flying fish genus Cypselurus (Beloniformes: Exocoetidae). Part 1. Revision of the subgenus Zonocypselurus Parin and Bogorodsky, 2011 with descriptions of one new subgenus, four new species and two new subspecies and reinstatement of one species as valid. Zootaxa, 4589(1), 1–71. https://doi.org/10.11646/zootaxa.4589.1.1

 

Abstractしか現時点では読んでいないが、自身が新種記載した種を否定しているわけである。それなりの証拠と論理があるのだろう、論文が入手できればぜひ読んでみようと思う。

ただ、これが本当ならこの標本はオオメナツトビとなるのだろうか? 北海道での記録は見たことがないが……

 

そしてもう一つ。たった一個体のためにこれだけ時間をかけるのは正直無駄である。正確な研究発表をする上では重要かもしれないが、終わらないのでは話にならない。

この線引きも重要である……。