環研究圏擬装網

北海道の大地で研究と趣味に勤しむへっぽこの備忘録。

深海暮らしのアリエッティ

スタジオジブリ制作の作品「借りぐらしのアリエッティ」は比較的有名な作品であり、多くの人に「アリエッティ」というと小人の話だと分かってもらえる(多分)。それが海外でも同じなのかは分からないが、2020年に新種記載されたこのアカグツ科フウリュウウオ属の一種の種小名にはアリエッティarriettyが用いられている。

 

Ho, H.-C. 2020. Two new deep-water batfish of the genus Malthopsis from the Pacific Ocean (Lophiiformes: Ogcocephalidae). RAFFLES BULLETIN OF ZOOLOGY, 68: 859-869. DOI: 10.26107/RBZ-2020-0094

 

通常生物の学名に用いられる種小名にはルールがあり、何かにちなんでつけた名前はある程度一目でわかるようになっている。例えばその分類群の研究に貢献した人の名前であるとか(これを献名という)採集された地名であるとか、である。前者では種小名の語尾に-i が用いられるが、これは主に男性に対する献名に用いられる。女性名にちなむものであれば-ae を用いる。採集場所にちなむ場合は-ensis で「~産」という意味を持たせる。もちろん学名はラテン語で表されるため、これらの例は主にラテン語ではない語句・地名に対して用いられる形である。

話がずれた。

少し疑問に思ったのは、このアリエッティの場合は献名になるのかということである。この問いに対する答えはNoだ。先述の通りアリエッティを実在する人物の名前として用いたのならarriettyae になるべきである。そうでないということはやはり、物にちなむ場合は語尾を変化させる必要はないのだろうか。

 

借りぐらしのアリエッティ」は原作をMary NortonのThe Borrowerとして宮崎駿らが企画したものである。個人的に面白いと思うのは、小人たちが人間の住処から生活用品を「借り」することであり、正直なところこれは「狩り」である。映画内では野生的な生活を行う少年が出てくるが、それを対比させたものだろうか。とにかく、日本語では「借り」と「狩り」で同じ音であるが、それを映画内に落とし込んでいるのが面白いと思う。原作は読んでいないが、原作の小人たちもBorrowerでありながら「狩り」をしているのだろうか?

この論文内の新種Malthopsis arrietty は体躯が小さいことからこの種小名になったようだが、Hunt以外の「借り」はできるのだろうか? なんて思うのである(院試の勉強をしなさい)