環研究圏擬装網

北海道の大地で研究と趣味に勤しむへっぽこの備忘録。

スギの面白さ

先日、スギの標本の観察を行った。スギというのはあの針葉樹の杉ではなく、スギ科Rachycentridaeスギ属Rachycentronを一種のみで構成するスギRachycentron canadumである。今回観察した個体は標準体長SL33.4cmの小型個体であったが、すでに尾鰭の後端が湾入して二叉状になっていた。その割に体側には幼魚に見られる白色縦帯が二本見られたため、成魚になりかけの個体だったのだろう。私は本種を見るのはこれが初めての経験である。

スギの特徴として、非常にコバンザメに類似した体形が挙げられる。顔つきや鰭の付き方はほぼコバンザメと変わらない。違う点を挙げるとすれば、微小な鱗が体表を覆っていること(コバンザメ類は埋没しており円滑な体表をしている)、棘条のみで構成される第一背鰭が存在し、棘条それぞれは鰭膜でつながっておらず互いに独立していること(コバンザメ類は第一背鰭が吸盤に変化したと考えられており、背鰭としては一基しか持たない)、鰭条がコバンザメ類に比べ皮下に埋没しておらず計数しやすいことなどが挙げられる。標準体長や鰓耙の数など異なる点はいくらでもあるが、気になった点はそれくらいだろうか(体側にある暗色の縦帯は以前観察したことのあるスジコバンPhtheirichthys lineatusと類似するが、スジコバンはやや特殊なコバンザメ類であり、体形が非常に細長い。これも非常に面白い魚類であった)

しかしスギは、コバンザメとは異なる格好良さともいえる魅力があった。おそらくがっしりとした体格と、黒々とした体色、第一背鰭の棘条の剣呑さがそう見せるのだろう。この棘条がそれぞれ独立しているのは先述の通りだが、これら一つ一つは背にある溝に収納できる。すなわち、背鰭をたたむことが出来るのである(観察した個体は溝が未発達であったが、これは成長段階によるものだろうか)。この機能は遊泳力を高めるためだろうとは容易に推測できるが、実は本種は泳ぐ際に胸鰭を立て、さながら軟骨魚類のサメのように堂々と泳ぐそうである。

またこの背鰭棘をたたむ機能、どうもコバンザメの吸盤状の板状体の先駆けのようにも見える。Takamatsu(1967)によると、大分生態水族館(現:大分マリーンパレス水族館「うみたまご」)で飼育されているスギがマダラエイTaeniurops meyeni (当時と所属および学名が変わっている)に欠かさず随行して遊泳し、マダラエイが吐き出した餌を素早く捕食するなどの行動を7ヵ月の間見せていたという。ここでも、Regan(1912)が示したブリモドキNaucrates ductorと同様の背鰭棘をたたむ機能とコバンザメの吸盤状体の類似性に触れている。

 

Takamatsu S.,On the habit of cobia, Racycentron canadum (LINNAEUS), associating with sting ray, Dasyatis maculatus. 1967.  Volume 14 Issue 4-6 Pages 183-186_2

https://doi.org/10.11369/jji1950.14.183

 

この文章が出た当時と分類体系が変わり、コバンザメ科とスギ科は近縁とされている。逆にこれだけの類似性を見せているのに当時は目レベルで分類が異なっていたのかと思うと面白い話だ。

あと、スギは美味であり、増肉計数が1に近く、沖縄などでは盛んに養殖されていると聞く。ぜひ一度食べてみたいし、養殖現場を見学してみたいものである。